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                                           2014.10.21

南山学園、運用損失約88億円の賠償請求をめぐって
〜機関投資家としての学校法人の運用責務〜


梅 本 洋 一
インディペンデント・フィデュシャリー株式会社
法人資金運用管理コンサルタント


  ◆南山学園がUBS証券と野村証券提訴 88億円賠償求

  南山大学や高校、中学などを運営する学校法人南山学園(名古屋市昭和区)が資産運用で約229億円の損失を出した問題で、同学園はUBS証券と野村証券を相手取り、約88億4千万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴したと16日、発表した。提訴はUBSが9月12日付、野村証券が10月9日付。
  同学園は2006〜12年、両社とデリバティブ(金融派生商品)取引の契約をし、UBS証券との取引で約60億9千万円、野村証券との取引で約19億5千万円の損失を出した。請求額は、損失額に弁護士費用を加えた。取引した他の証券会社に対する同種の訴訟も検討しているという。
  学園側は「リスク性が高い商品なのに、説明が不十分だった」などとしている。UBS証券は「原告の請求を否定する。今後裁判手続きにおいて当社の主張を行う」。野村証券は「個別案件についてはコメントを控える」としている。       (出所 朝日新聞 2014/10/16)
  今後、本件は個別の経緯詳細を元に司法の最終判断に委ねることになるが、2年前の駒澤大学のケースを想起させるニュースである。同様の課題をかかえ、注目する学校法人も多いことかと思われる。
  そもそも投資家としての学校法人が「リスク性が高い商品なのに、説明が不十分だった」などという主張が認められる余地は既に相当狭まっているように思う。なぜなら、法人投資家と個人投資家との立場には明らかな違いがあるからである。

◆もはや学校法人が運用知識、経験の未熟さを言い訳にできない理由
  投資に関する知識・経験が未熟な個人投資家に対する金融業者の「説明不足」の責は非常に重くなる傾向がある。なぜなら、個人投資家レベルでは金融業者に対抗するだけの知識・経験をにわかに蓄積したり、その対応策を首尾よく準備したりすることが難しいからである。善意の個人投資家の不注意を責めることは難しいのである。
  しかしながら、法人投資家においては状況が個人投資家の場合とは全く異なる。特に学校法人は恒常的に資産の運用管理を行っていることが既に周知の事実である。所謂、機関投資家であると言ってよい。金融業者に対抗するだけの知識・経験を持ち合わせた人員を配置する、外部コンサルタントを雇うほか、対応策はいくらでも打つことのできる投資主体なのである。つまり、個人投資家ではなかなか対応できないが、法人投資家は組織として資産運用や金融業者への対応力を高めることはいくらでもできるのである。また、そのような対応策を講ずることは、もはや学校法人としての責任であるといっても過言ではない。
  学校法人が“公金”の運用管理者という責任ある立場である以上、あたかも善意の素人投資家であったかのような運用失敗の言い訳は本来許されないのである。先のAIJ投資顧問の事件においても、悪質な業者の責任追及は勿論ではあるが、「“公金”の運用管理者である年金基金がなぜ見抜けなかったのか」という基金側の責任問題が同じくらいに大きくクローズアップされた。それと同じ目で、学校法人の資産運用も世間から見られていると思った方が良い。

◆今こそ『他山の石』とし、運用管理の再構築を!!
  多くの学校法人の状況も同様であるが、未だもって、学内の運用担当者が金融業者からの商品提案を受け、更にそれらを取捨選択して内部で諮るという従来からの運用管理スタイルが引き継がれている。
  実は、上記下線部分の初動段階で、将来の運用失敗の種が簡単に見逃されてしまうという学校法人資産運用の抱える構造こそが問題なのである。このような古い構造を断ち切ることができれば、重大な運用失敗の殆どは未然に回避することができるといえる。しかし、残念なことではあるが、リーマンショック以来現在に至るまで、この初動段階での問題について多くの学校法人が実質的に進歩を遂げたとは言い難い。
  昨今、たまたま進行した円安によって塩漬けだった仕組債が再び早期償還を迎えている、金融危機も過ぎ去り銀行劣後債なども順調に償還を迎えていることは幸いである。しかしながら、折しも異常低金利の運用環境である。一般的な債券へ償還金を再投資したのでは、もはや資産運用とは呼べないような利回りの水準である。
  そこで、一部の学校法人の間では再び仕組債投資(株価参照型、為替参照型)を開始したとの声も漏れ聞こえてくる。その他にも運用収益をかさ上げする為に、学内では様々な金融商品の検討が行われ始めている。このような状況である今こそが、将来の運用失敗の種を紛れ込ませないよう細心の注意が必要な時であり、“公金”の運用管理者として学校法人はその責任を負っていることを再認識すべき時である。
  現在の内部者だけではそのような作業が困難なのであれば、外部のコンサルタントなどの知恵を借りてでも法人投資家として独り立ちしなくてはいけないという重責を各学校法人が負う時代に変わってしまったことに早く気付くべきである。

■インディペンデント・フィデュシャリー株式会社■
E-mail: umemoto@i-fiduciary.co.jp
http://www.i-fiduciary.co.jp/

 

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